中野振一郎のゴールドベルク変奏曲2008 |
■上野・東京文化会館にて
暮れも押しつまったというのに・・・(^^
外は日本晴れのいい天気だが、随分冷え込んできた。
今日は午後から上野へ。
久しぶりの「バッハのゴールドベルク変奏曲」の演奏会を待望のチェンバロ奏者
中野振一郎氏で聴いてきた。
2008年12月28日(日) 午後3時 東京文化会館小ホールにて
B.J.バッハ ゴールドベルク変奏曲 BWV988
チェンバロ:中野振一郎
*この曲をYouTubeでご紹介できるものがないかと思って探しましたが、、、
ピアノで演奏されたものとは全く違うので、見つけることが出来ませんでした。
グールドの貢献は非常に大きいものですが、やはり…違う気がするのです。
■中野振一郎氏 CDジャケット
中野振一郎氏とは...このような方です。
何度かテレビでも拝見したことのある方だが、めちゃ関西人で笑える。(笑)
けれども、彼のゴールドベルク変奏曲は並外れて質の高いものだと思う。
遠い記憶だが、まだ社会人になりたての頃、伊丹だかどこかで彼の演奏会を聴いたことのあるようなないような、、、うろ覚えながら、たぶん彼だろうと思う。(^^;
彼のこの曲へのな並々ならぬ想いや研究はプログラムノートからも伺えるので
そこから一部(殆どですが)を転記させていただこうと思う。
「ゴールドベルク変奏曲 BWV.988」・・・不眠症に悩んでいたカイザーリンク伯に「心地よい夜を迎えていただく」ために作曲されたのがこの変奏曲。名前の由来は伯爵がお気に入りであった天才少年演奏家ゴールドベルク…とまあ、こういった伝承・伝説の残っている作品ではありますが、このエピソードがどこまで本当なのか…
(中略)
この作品を広く世に知らしめたのはカナダの天才ピアニスト…グレン・グールドです。彼の演奏がなければ、果たしてこの作品がこれほどまでに「名曲」として騒がれていたのかも「疑問」です。しかしこのパイオニアの影響力が強烈でありすぎたために、ピアノの名演は定着していきましたが、チェンバロの名演があったとしてもさほど騒がれない…つまり肝心のJ.S.バッハ指示は忘却されていると言えるのではないでしょうか。
J.S.バッハのオリジナルの指示は、それは「二段鍵盤」による演奏…殆どレジスターの指示とも言える彼の要求は、「二段鍵盤の使い分け」にまで言及しています。
これは当時の常識から考えると異例のことで、それだけにバッハの意志の強さが証明されているわけです。
古楽奏者に求められるゴールドベルク変奏曲…それは歴史的なエピソードでもなく、現代人のイメージでもなく、まさにこの「バッハの意思」を出発点にしたものでなければならないでしょう。
「ゴールドベルク変奏曲を演奏する時は、中野でない中野を見ているようだ」といわれることもありますが、これはまさにこのことを意味しているのではないかと思っています。
演奏時に譜面を見て、その都度変化する自由な演奏…特にヴェルサイユのポルトレなどを演奏するときにはそういった演奏者の感性が、作品をより面白いものにしてゆくのですが、そういったことをゴールドベルク変奏曲でやろうものなら途轍もない逆襲にあってしまう。もっと良くしようなどとおこがましいことは考えず、ただ一つの型で淡々と朗読を続ける…いうなれば修行僧の長大な旅ということになるでしょうか。
特に前半は「修行」を思わせるストイックな色合いが濃厚。第16変奏のフランス序曲的な幕開けを境に新しい世界が展開してゆきます。全体的にその性格描写は「イタリア協奏曲」や「半音階的幻想曲」で見せるようなきらめきのあるものではなく、やはり音符が延々と続いてゆくなかでつむぎだされる「音色の美」がテーマ。
音色の違う二段の鍵盤を駆使することで、もつれ合う音色の世界が展開する…これが今、私の感じている「ゴールドベルク変奏曲」に対する雑感です。
それではステージにて。中野振一郎
J.S.バッハ 「ゴールドベルク変奏曲 BWV.988」
アリア ト長調3/4拍子3声部
第1変奏 1段鍵盤3/4拍子2声部
第2変奏 1段鍵盤2/4拍子3声部
第3変奏 1段鍵盤12/8拍子同度カノン3声部
第4変奏 1段鍵盤3/8拍子4声部
第5変奏 1段又は2段鍵盤3/4拍子2声部
第6変奏 1段鍵盤3/8拍子2度カノン3声部
第7変奏 1段又は2段鍵盤6/6拍子(テンポ ディ ジーガ)2声部
第8変奏 2段鍵盤3/4拍子2声部
第9変奏 1段鍵盤4/4拍子3度カノン3声部
第10変奏 1段鍵盤2/2拍子4声フゲッタ
第11変奏 2段鍵盤12/16拍子2声部
第12変奏 3/4拍子4度カノン(転回カノン)3声部
第13変奏 2段鍵盤3/4拍子(カンティレーナ)
第14変奏 2段鍵盤3/4拍子2声部
第15変奏 ト短調1段鍵盤2/4拍子5度カノン(転回カノン)3声部
第16変奏 1段鍵盤序曲2部形式2声部-3声部
第17変奏 3/4拍子2声部
第18変奏 1段鍵盤2/2拍子6度カノン3声部
第19変奏 1段鍵盤3/8拍子3声部
第20変奏 2段鍵盤3/4拍子2声部
第21変奏 ト短調4/4拍子7度カノン3声部
第22変奏 1段鍵盤2/2拍子4声フーガ(アラ・ブレーヴェ)
第23変奏 2段鍵盤3/4拍子2声部
第24変奏 1段鍵盤9/8拍子3声部
第25変奏 ト短調2段鍵盤3/4拍子3声部
第26変奏 2段鍵盤18/16拍子と3/4拍子の複合3声部
第27変奏 1段鍵盤6/8拍子9度カノン2声部
第28変奏 2段鍵盤3/4拍子
第29変奏 1段又は2段鍵盤3/4拍子
第30変奏 1段鍵盤4/4拍子(クォドリベット)4声部
アリア (主題復帰)
残念ながら、今回使用されたチェンバロについての詳細は分からない。
色々ネットを通して探ってみるとどうもフランスのブランシェ(作家名)のレプリカのようである。(確証はないが)
ちなみに、会場の全景とこれじゃないかと思われるネットで拾った写真↓
■開演前の東京文化会館小ホール内部。チェンバロ調律の最中。
■ネットからお借りしたが、中野氏が弾かれたものだと思う。グリーンに金色。
非常に美しい、側で見てもかなり小さい感じがした。
プログラムノートにあるように、先ず最初のアリアは誰もが知る有名な旋律なので
しっかり聴ける。やはり生のチェンバロの音色は小さく繊細だった。
楽器によってかなりの差がある気がするが、耳障りの悪いバシャバシャという音は全くなく、弦を爪弾いてなるチェンバロ独特の音色が心地よい。
第一変奏から暫くすると、なにやら眠気が襲ってくる。「あー、うとうとしちゃダメだ」などと思いながら、淡々と音楽は進んでいく。
面白かったのは、二段ある鍵盤を曲ごとにかなり色々換えて演奏することだった。
これこそ、バッハの指示するものだと思うが、それによって音色がかなり変化する。
今回は自由席ということで、開演の一時間前に出かけたがすでに何十人か来られていた。皆さん、前の方でしっかり聴きたいということらしい。
確かにチェンバロは音が小さいので大ホールでは到底無理。この小ホールですら大きい位に思うが、前から3列目の舞台左手(奏者の手が見える辺り)を陣取る。
大まかな音の動きは譜面台にある楽譜からも伺える。(見える距離でした)
16曲目でしっかり目が覚めた。(笑)
ここから明らかに音楽が変化し、彩りが変わるのが分かる。
俄然面白くなって、中野氏の手や指を見ながら音楽感じていた。
先日聴いたビーバーのロザリオソナタとも重なるのだが、最後の主題復帰のアリアを聴きながら、これを聴くために30もの変奏曲を聴いてきたのかと思わされた。
なかなか渋いいい演奏会だったと思う。
決して勢いで弾かず、バッハの想いを汲んだからこそこうなったというような演奏に感じた。
彼の演奏会にはまた是非出かけたい。
ここにまた非凡なる音楽家がいた。