ヴィクトリア・ムローヴァ 〜バッハ無伴奏の夕べ〜 へ |
ヴィクトリア・ムローヴァ(ヴァイオリン)リサイタル
2013年4月16日(火)午後7時 王子ホール(銀座)
J.S. バッハ:
無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト短調 BWV1001
無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006
無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004
80年代に飛ぶ鳥を落す勢いの完璧主義の女性ヴァイオリニストだったムローヴァが11年ぶりに来日してリサイタル。何と彼女の(行き着いた先は)演奏曲目はバッハの無伴奏。かつてのテクニックバリバリの演奏を知っている相棒には目から鱗のプログラムだったようだ。
ムローヴァは年を重ねることで音楽をより深いものに変えていったように思った。年をとることで深化するとは限らないが、彼女の場合はより高みを見つめ深めていったのだろう。
昔の彼女ならけっして許さなかったであろう音(掠れたり、ひっくり返ったり)をも畏れずに敢えてガット弦を使っての演奏。予想外に大胆な表現、そして大きな音色に驚いた。
演奏は余計な雑念を振り切るように、ただただひたすらに音楽と対峙している様で、目の前の音楽世界に集中するのみ、飾ることを拒否しているようにさえ感じた。聴いていると彼女が自身の「自画像」を描いているのを目の前で見ているような感覚だった。画家が度々「自画像」を描いてその時の自分を深く見つめるように、彼女にとって今の自分をそのまま曝け出すことで、彼女そのものが音楽になったような演奏だと思った。美しくあり、醜くもあり、苦しくあり、同時に幸せの境地に至ったかのような、矛盾するようだがそうではない、独りの人間の生き様がバッハの音楽を通して見えてくるような時間だった。いい時間だった。
彼女のこれからのますますの深化に期待したい。
今宵の一曲。
◆Bach - Chaconne BWV 1004 - Viktoria Mullova