Im Treubhaus ・・・ 「温室で」 |
肌に感じる気温も少しずつ下がってきた。
そんな時に聞きたい曲が「温室で」なのだ。
(ヴェーゼンドンク歌曲集より、ワーグナー作曲)
静かに哀し気に演奏され、ソプラノの歌声も憂いを帯びて哀しい。
解説を読むとこの歌の重要な楽想が「トリスタンとイゾルデ」の動機に用いられ、
"トリスタンとイゾルデのための習作"と呼ばれているそうである。納得。
確かに、ボクはワーグナーのオペラ、楽劇の中でも「トリスタンとイゾルデ」は非常に好きなのだ。決して明るくないし、悲愴感が漂うのに、その作品の織の複雑さというか、音の重なり、色合いの深さには心揺さぶられるのだ。
大きなアーチを描いている冠状の葉。
エメラルド色をした天蓋よ、
遠い異国から来た子供たちよ、
おまえたちはなにをそんなに悲しんでいるのですか。
おまえたちは黙って枝をしなだれることで
その悲しみを形にしてあらわしています。
そしてその悲しみの眼に見えぬしるしとして、
甘い薫をあたりにくゆらせています。
憧れに身を焦がしつつ懸命に
おまえたちは腕をひろげています。
そして夢中になって抱き寄せるものが
侘しい寂寞、いまわしく取るに足らぬものなのです。
可哀そうな植物たちよ、わたしは知っています。
わたしたちは同じ非運をともにしていることを。
明るい光につつまれてはいても、
わたしたちの故郷はここにはないのです!
そして太陽が一日のかがやきを残しつつ、
楽しげに去って行くときには、
深い苦しみに悩むものは、
沈黙の暗闇のなかに閉ざされるのです。
あたりは静かになり、かすかなそよぎが、
不安気に温室のなかに漂うのが感じられ、
するとみどりの葉の先端に溜った露の滴が
今にも落ちそうにかすかに揺れているのです。
"Im Treubhaus" 「温室で」
RICHARD WAGNER "ヴェーゼンドンク歌曲集"より
詩:マチルデ・ヴェーゼンドンク(訳:喜多尾道冬)