バッハと武満とP.ゼルキン |
P.ゼルキンは、祖父のアドルフ・ブッシュ、父はルドルフ・ゼルキンとクラシック好きなら知らない人はいないと言うほどの音楽一家に生を受けているピアニスト。父ルドルフは20世紀を代表する大ピアニストで、それはもう素晴らしく繊細で可愛くて骨のある演奏をする音楽家だった。祖父のブッシュはバイオリニストでその弦楽四重奏団の演奏は歴史に残る名演奏なのだ。前置きはこのくらいにして、
ピーターのリサイタルには初めて行った。舞台に出てきた瞬間から彼の世界に変わった。長身の紳士はまさに芸術家という以外の何者でもなかった。芸術以外のことには全く興味もないであろうと想像できる音楽へのひたむきな真摯な姿勢とその探究心。本物とはこういう人を指して言うのだと思った。
静かにピアノの前に座ると、瞑想するかのように、これから弾く曲へ精神を集中させている。決して慌てない。バッハの前奏曲で始まったのだが、彼の精神の強さというのか音楽へのひたむきさは、会場をも包み込み、雑音ひとつも出したくないほどの心地よい緊張感とともに、生の音となって芸術作品をかたち創っていった。
今回のプログラムは、バッハと武満。この二人へのオマージュとでも言えるプログラムは、二百年という時間を超越して、何の違和感もなく心に響くものとなった。
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